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劇団820製作所 思い出の場所U 遊園地跡地 作品ノート



今はただ草の生えたかたい地面の色が点在するほかに何もない場所だ。長いこと、跡地利用の計画は宙づりにされ、連中の思惑はかみ合うことのないまま時間だけが過ぎた。口の周りをべとつかせ、だれかに見つかることのないように、あわてながら運んだ枇杷の種がたよりない芽を吹き、やがてみどり色の幹から若い枝をひろげ、それからの行方を彼に見守ることを忘れさせてしまうほど。草は伸び、樹木は満ち、堆積したコンクリートの欠片を覆った。


それはどこともわからない場所だが私たちの立つ場所にひどく酷似している。戦場である。
かろうじて叫びだすことを抑えている彼らの周囲に張り巡らされているのは、虚ろな嬌声。安く買い取られた言葉たち。物語のないラヴソング。幸福な宗教と、優しい犯罪。

ある地下の空間だ。
大柄な体を窮屈そうに縮こまらせた彼の友達がステージを中央まで横切り、細身の男の一人はうつむいて楽器をかまえたまま動こうとせず、長い髪のほうはだれかに声をかけられ応えるように細い弦のいくつかを鳴らし、マイクスタンドの前に立ち、こちらをのぞきこむようにして視線を泳がせていた女が、不意に口を開いた。

幸せの歌を女の子はうたうの、その町で一人だけ、と、女は数日前に見た夢を彼に教える。

* *


地上へむかう細い階段をあがると、彼は街の明るさに目をほそめる。いつもの街。いつもの喧噪。エンジンの震え。悲鳴のような笑い。夜の物音。ラジオのノイズ。まだ彼を離れない響き。

音楽が鳴っている。

空耳ではない。ほんとうに鳴っている。旋律がながれている。だが耳をすますことは困難だ。誰もが勝手なことをしゃべっている。彼は走りはじめるだろう。けっしてたどりつけないだろう。足もとは耐えきれずに崩れ、崩れていく場所に彼は踏みとどまり、からだいっぱいに次の一歩を踏みだす姿は、まるで踊りつづけるように映るだろう。

* * *


かつてその場所は錆びた柵とまばらな木々に囲まれ、その隙間から湿りを帯びたくすんだ色彩を窺えるだけだったが、ディスカウントストアの駐車場に面した汚れたレンガの向こうからは、いつでも華やかな音楽が聞こえていた。遠い休日。大仰な正門に並んだ列。結ばれた手をほどいて、もしも迷い込んでいけたなら、一目散にあの乗り物へ駈け出そうと約束をした。

けれど夜は深くからだを疲れさせている。